ある日電話番号を交換して、思い切って電話をしてみた。
あわあわしないように、前もって言いたいことを紙に書いておいて練習してからかけたのだけど、やはりそうとう慌てていたようだ。
「Hello How are you? お元気ですか?」という挨拶の後に、突然
「I like you!!好きだ!」と言ってしまった。
今書くとすっごく恥ずかしい、中学1年生の英語だと思う。
そして、続けて言ったのは
「Take me out!」
自分としては
「どこかに連れてってくれる?」みたいな甘い感じと思っていたのだけど、今考えると
「どっか、連れてけ!」に近い。 というか、そのままだ。
彼はびっくりしたと思う。おとなしく優しいとアメリカ人男性が憧れる日本女性がいきなり
「好きだ!どっか連れて行け!」
脅迫だ。
まあ中学英語でもこうやってデートが始まったのだから、基本は大事だと思う。
そんなふうに当時の私の英語はまだまだ片言で、夫の日本語は単語20個位。
長めのセリフは
「トイレはどこですか? 」
「ビールをください」
「この2つは大事だよ」と今でも言っている。
初デートはお互いがハンディー辞書を持って行った。
今の時代ならスマホでちょいちょいっと英単語が出てくるのに、辞書をめくるダサい私達。 でも、それもいい思い出だ。
初デートは新宿にした。
待ち合わせ場所に現れた彼は、なんと胸一面に大きなカブキの絵が書いてあるTシャツを着ていた。しかもドーンと助六と書いてあった。
今なら「うわ~だせえ」と笑う、そんなデザイン。でもその時はなんだかとても嬉しくなってしまった。
日本が大好きで一生懸命日本語を習おうとするでっかいスケロク、いや外国人。
その姿を見て、ますます気に入ってしまった。
その日はメモ片手に新宿観光をした。
前日、英会話の本を見ながら(ここは新宿都庁です)とか(この辺は高層ビルが建っています)を英語で書き込んだメモ。
たどたどしい説明にオーバーにOH!!と喜んでくれる彼。なにか食べるたびに
「OH!おいし~です!」と大喜びしてくれた。
道端で売ってる小さなおもちゃを見つけて
「OH!かわい!」
露天のおにいさんも「歌舞伎だね!助六かい!嬉しいね、似合ってるよ!」と嬉しそうだ。
「えっと、これ、くーださい」
「ありがとうね!ひとつ?」
「も、ひとつ!ツゥーください!」
そこで売っていた薄い木でできた首が動く鳥とトンボのマグネットを買って、一つを「プレゼント!」と渡してくれた。
今はもう羽が折れたトンボは今でも我が家の宝箱に入っている。
☆箱から出して撮影。24年もたつのに色あせてないですね。良い思い出です☆
この日、朝から夜まで一緒にいて、帰りには手をつないでいた。
朝待ち合わせした時はただの友達だったのだが、一日一緒にいて夕食を食べる頃にはすっかり意気投合していた。
夕食はしゃぶしゃぶ屋さん。
「こうやってね、お肉を洗うようにするの。しゃーぶしゃーぶってね」
「しゃーぶしゃーぶ」
「そうそう、上手!しゃーぶしゃーぶ」
なにがしゃーぶしゃーぶだ!
国際バカップルの誕生だ。
この日の楽しさは今でも忘れられない。
その後なんと数ヶ月で結婚することになり、あれよあれよで二十四年も経っていた。
いまでは変な日本語を話すおっさんと変な英語を話すおばはんだ。
息子も生まれ、大人になった。
夫のことは(おとうたん)と呼ぶことが多い。アメリカンおとうたんだ。
そんな私達の日常を綴っていきたいと思う。
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