まだ結婚する前に基地の独身者用のドームの部屋へ遊びに行った時のお話。
在日米空軍の独身者は一部屋をルームメートと共有している。当時でも結構狭いところに住んでいるんだなあと思った。
それぞれ工夫してあり、彼のルームメイトはベッド周りに病院のようにカーテンを引いてあった。これは彼女が来た時のあれやこれやのため。
姿は見えぬが隣の声が丸聞こえというこの状況は、あれやこれやの英語の勉強には役に立ったかも? 行くんじゃなくて来るんだ?(I'm coming)みたいな。コホン、失礼。
男性も女性も同じドームだが、ルームメイトは同性だ。
そして彼の部屋。そこにはなんと、2畳だけだが畳が敷いてあった。基地の中のアメリカ風宿舎、大きなドアを開けると2畳の畳。
初めて見たときはびっくりした。
「え~たたみ~??」
「うん、いいでしょう?タタミマット!ヘビーだった!」
2畳分の畳マット。 買って持って帰ったらしい。
そして壁には布のタペストリーがかっていた。
黒字に(京都)(日本)の金文字で漢字、絵は富士山と桜と舞妓さん。
ものすごい、べたなTheジャパーンなタペストリー。
修学旅行の中学生でも買わない、そんなデザイン。
「これ、どこで買ったの?」
「あ!これ好き?欲しい?」
……いらねえ。
壁に貼ってあるThe japanないろいろなものを見せてくれた。机の上にも金色の龍の置物があった。ん?これはジャパン?
さらにベッドの上に毛布が掛けてあったのだが、目を引くロイヤルブルーの毛布に一面に大きな虎の模様が描かれている。
頭のなかでドラの音がジャアーーンと鳴った。
なんか、もう、日本ぢゃない。
それにしても、提灯とか紙でできたランプとかどこもかしこも日本ラブにあふれていて、私はぷっと笑いながらもすごく嬉しくなってしまった。
それから、ペットの緑がめを大事に飼っていた。 大きな水槽に綺麗な水。色とりどりの石を敷き詰め、宝箱のような飾りも入っていた。
「あ!カメ飼ってるんだ!名前は?」
「かめちゃん!!」
そのまんまや~ん。
かめちゃんを買って帰った日に辞書で調べたそうだ。
そしてかめちゃんは初めて行ったお祭りで買ったらしい。
多分福生の七夕祭り。
「金魚すくいは楽しかったけど、難しかった」とか
「焼いたコーンはソイソース味で美味しかった」とかすごくエンジョイしたようだ。嬉しそうに話してくれ、写真もたくさん見せてくれた。
私には全然珍しくない(焼きとうもろこし)と書いたのれんや浴衣を着た子どもたち。
そして小さいかめちゃんに一目惚れした夫。
「あうう~これ、いくらでーすかー?」と涙目で聞いたに違いない。確信しているのは理由がある。結婚生活でこういう場面を何回か見たからだ。
すごく大事にかめちゃんを飼っているのを見て、そして優しそうな目でカメちゃんを見るのを見て、この人は家族を大事にする人に違いないと直感した。
そしてその直感は大当たりだった。
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